あなたは「マジックの種明かし」というタブーについて関心があるのではないでしょうか。
確かに、これまでマジシャンの間では、マジックの種明かしはタブー(禁忌・してはならないこと)とされてきました。
しかし最近、YouTube 等でマジックの種明かしが行われ、タブーを犯す人が出てきました。
また、種明かしを求めるお客さんに、何のためらいもなくマジックの種明かしをしてしまうマジシャンもいます。
そこで、この記事では、マジックの種明かしはしても良いのかどうか、私なりの考えを記しておこうと思います。
マジックの種明かしに関しては古くから議論があり、マジシャンによって立場は様々です。
その中の一意見として、参考にしていただけたらと思います。
マジックの種明かしはタブーなのか?
私の考え:基本的に種明かしはタブー
まず、私の立場は、基本的には「種明かしをすべきでない」というものです。
つまり、マジックの種明かし行為はタブーであるということですね。
もちろん、種明かしといっても色々な状況があると思いますが、中でも、「マジシャンが、専門的にマジックをやっているわけではない一般のお客さんに対してマジックの種明かしをする」という行為をすべきでないと考えています。
上記の状況において、種明かしをすべきでないと私が考える理由は、主に以下の3つです。
理由1:マジックの醍醐味が無くなる
マジックを魔法足らしめているのは、やはり種の存在ですよね。
種が分からないから、不可能な現象が成立しているように見える。
そして、その種を知りたいとか、どうなってるんだろう、という気持ちが人々をマジックに惹きつけるのでしょう。
ですから、肝心の種を明かす行為は、マジックをマジックではない、何の不思議さもない動作にしてしまうことに他ならず、マジックの魅力や醍醐味を無くしてしまうと考えています。
理由2:他のマジシャンに対して迷惑
私が演じているマジックは、何も私だけが行えるわけではなく、他のマジシャンも演じているものがほとんどです。
そうしたマジックの種を、私が不用意に明かせば、そのマジックに使われているテクニックや仕掛け( ギミック )がお客さんに知られることとなります。
そして、他のマジシャンが同じようなマジックを見せた時にも、そういうテクニックや仕掛けの存在が、そのお客さんの脳裏に浮かぶことでしょう。
確かに、マジシャンにとって、高々1つや2つの種を知られたところで、持ちネタが尽きるようなことは無いと思います。
でも、たとえ見ているお客さんに見破られなかったところで、「こういう仕掛けなんだろう」と考えながら見られり、演技中に「種を知っているぞ」などと茶々を入れられたりすると、マジシャンが演技しにくいことには違いありません。
マジックをする自分以外のマジシャン達が気持ちよく演技できるように、同じマジシャンとして相手をしにくいお客さんを増やさないための努力はした方が良いと思っています。
理由3:マジックは大したこと無いものだと思われる
マジックにおいて、種は確かに重要なものです。
でも、マジックの根幹をなす原理が分かったからといって、それだけでマジックが成立するかと言われれば、そうではないんですよね。
なぜなら、優れたマジシャンが演じるマジックは、演出、手順の構成、台詞、どのテクニックを使うかなど、あらゆる点において緻密に検討され、腐心して作り上げられた1つの作品だからです。
決して、種が分かったからといって、それだけでできるものではないんです。
例えば、テレビでも、マジックの種を見破ることを楽しむタイプの番組がありますよね。
一般の方はマジック界におけるタブーなど気にもしないでしょうから、あの手の番組を見れば、「マジックに種明かしは付き物」、「種さえ分かれば自分にだってできる」、「マジックはマジシャンと観客の勝負」などと考えるようになってもおかしくはありません。
でも、そういう人が増えると、種以外の随所に散りばめられた、お客さんに楽しんでもらうための創意工夫が台無しになるんですよね。
更に、不思議な現象を純粋に楽しみたいお客さんがいるのに、その横で種明かしをして優越感に浸ろうとする人も出てくるかもしれません。
このような形でマジックやマジシャン、お客さんをないがしろにするおそれがあるので、安易にマジックの種明かしをすべきではないと考えています。
例外的に種明かしが認められると考える状況
上記のような理由から、私は積極的にはマジックの種明かしをしないようにしています。
でも、例外的に、種明かしが認められる条件もあると考えています。
その例として、以下の3つが挙げられます。
例外1:一般に広く知られているマジック
私が種明かしをしなくても、その現象を調べれば、すぐ種明かしが出てきてしまうようなマジックについては、種明かしはしても構わないかなと考えています。
ただ、この手のマジックでも、本格的なもので、マジシャンが持ちネタにしているようなマジックについては、種明かしはしないようにしています。
問題は、マジシャンにとって価値の高いネタを平気で種明かしする人が出てきたことです。
むやみな種明かしによって、マジシャンにとって価値あるトリックが一般に広く知られたマジックとなってしまいました。
とても憂慮すべきことだと思います。
例外2:他者の利益を侵害しないと考えられるもの
具体的には、クリエイターによるオリジナリティが高いトリック、ディーラー(販売店)が商品化しているトリック、等に該当しないマジックです。
独創性の高いマジックは、そのクリエイターに対価を支払うことで、マジックのディーラーが独占的に商品を販売できるわけです。
正当な対価を支払わない人間が種明かしをすることは、本来はクリエイターやディーラーがが得られたであろう利益を奪いかねません。
ただ残念なことに、マジックの種自体は法的には保護されにくいようで、種明かしがタブー視されてはいても、違法であるとまでは言いづらいケースが多いようです。
このため、マジック用品の海賊版が出回る例は数え切れず、悩ましい問題となっています。
例外3:マジックを演じたい方へのレクチャー
マジックを覚えたい、自分も演じてみたい、と真剣に考える人に対してなら、こうした種明かしに関する基本的なスタンスを守ることを約束してもらった上で、種明かしをするのは構わないと思っています。
重要なのは、種を知って満足するだけとか、種明かしをしてマジシャンや周囲の観客に対して優位に立ちたいとか、そういう動機ではないということです。
私自身も、マジシャンの方が書いた本からマジックに出会って、マジックの世界を知ることが出来ました。
ですから、種明かしによって新たなマジシャンが生まれるのも確かなのです。
もし種明かしが全て禁止されてしまったら、マジックは継承されること無く、廃れていってしまいますから、それはそれで問題でしょう。
ですので、モラルを持ち合わせ、マジックの文化を維持・発展させていくことができるような人に対してなら、教えても構わないと考えています。
まとめ
以上、「マジックの種明かし」というタブー行為について、私の意見をまとめました。
今回の記事では、込み入った議論は行わず、私見のみにとどめています。
ですが、この辺りは根が深い問題なので、いずれ、資料を精査し、議論をきちんと整理したいなと思っています。
私としては、現実でもネット上でも、一部のマジシャンの種明かし行為は目に余るものだと感じています。
もちろん、タブーであるにも関わらず、節操なく種明かしを行う彼らの考えも、分からなくはありません。
実際のところ、マジックの種明かしには一定の需要があります。
ですので、利益を上げるという目的のためなら、タブーを犯してでも種明かしするという選択が正しいのかもしれません。
ただ、私としては、むやみな種明かし行為に頼らずとも、自分の演技などで価値を感じてもらえるマジシャンでありたいなと思っています。
マジックはやはりマジックであって、お客さんにとって不思議なもののままにしておきたい、という気持ちが強いんですよね。
(こういう考え方なので、現状、YouTube にアップする動画も演技のみが多いですし、 シークレットムーブ 等は必要以上に多くの人の目に触れないような形で解説しています。)
本記事が参考になったら何よりです。